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名大ファミリーにクローズアップ
「ピラミッドに魅了され、バックパックひとつでエジプトへ。そして今。。。」
今回は、名古屋大学高等研究院准教授の、河江肖剰(ゆきのり)先生にお話しを伺いました。河江先生は世界遺産のなかでも最も有名な古代建造物である、ギザのピラミッド群を研究対象としてきました。高校卒業後、単身カイロに移住した河江先生のピラミッドへの想い、名古屋大学への想いにまつわるお話しをご紹介いたします。
名古屋大学高等研究院
准教授 河江肖剰 先生
~原点/カイロで過ごした16年間~
名古屋大学高等研究院 准教授 の河江肖剰(ゆきのり)です。中高生の頃にエジプトのピラミッドに興味を持ち、高校卒業後カイロに移り住み、16年間滞在していました。現地ではカイロ・アメリカン大学でエジプト学を専攻し、卒業後はアメリカの国際調査チームで働き、「ピラミッド・タウン」というギザ台地のピラミッド群を造営した人々の都市遺構の発掘や、3D計測によるピラミッドの構造解明に従事してきました。現在はオープンイノベーション・プロジェクトとして、メディアとも組み、研究調査を推進しています。
~探検好きな少年時代~
出身は兵庫県の宝塚です。周りに自然や神社仏閣が多く、そういったところを歩き回り、人が入っていないところやなにか鬱蒼とした場所を探検するのが好きでした。ただ、実は、山林の中に埋もれている古墳などは、触ってはいけないものだという意識が強く、そういったところには入ったりしませんでした。
~大ピラミッド内の”未知の空間”には何が!?→時は流れ、3D計測をエジプト考古学に導入~
ピラミッドに興味を持ったのは、中高生の頃にテレビで古代エジプト文明のドキュメンタリー番組を見たのがきっかけです。そこで大ピラミッド内部には、まだ発見されていない「未知の空間」があるのではないかというフランス人の仮説が紹介されていました。エジプト学を学ぶべく日本で大学受験を行いましたが失敗し、当時、学んでいた古武道の先生から「一度エジプトに行ってきたらどうだ?」というアドバイスに従い、1年ほどお金を貯めて、カイロに移り住みました。バックパッカーでエジプトの遺跡だけでなく、アフリカや中近東を周り、その後、遺跡のガイドの仕事をしながら生計を立てていました。
勉強したいという気持ちが強くなったとき、有り難いことに奨学金を得ることができ、現地の大学に入学することになりました。卒業後は、ピラミッド研究の第一人者であるアメリカ人考古学者マーク・レーナー博士のもと、ピラミッドを造った人々の古代都市の国際調査チームに入り、発掘調査に従事しました。その後、日本の大学研究機関と共同で、3D計測をエジプト考古学に導入しました。さらに、TBSの世界ふしぎ発見とも関わるようになり、彼らの協力を得て、当時許可が取れなかったドローンによるピラミッドの詳細な画像データの撮影、クラウドファンディングによる多大な支援、そこから世界初となる3Dデータの生成に成功しました。
~3Dデータを駆使して、ピラミッドの構造体とその構造方法を解明する~
今取り組んでいる研究は、取得したギザの三大ピラミッドの3Dデータの解析から、実証性を持ったアプローチによるピラミッドの構造体とその建造方法の解明です。特に、ピラミッド内部の組積造やコア構造と表面の化粧板の関係性などを調べています。これに加え、ピラミッドの3Dデータと、衛星画像から得られる周囲の地形データの3D化による、4500年前の地形とピラミッドの関係性、そして古代のエジプト人が見たであろう「古代の景観」の復元から、当時発展しつつあった太陽信仰との関わりなど、宗教思想にも迫りたいと思っています。ここには「身体性」がキーワードとなっています。さらに、このデジタル・トランスフォーメーションの時代に合わせる形で、VRによる古代の復元から、教育コンテンツを作成することも行っています。
~名古屋大学は、自由闊達の精神を尊重してくれる場所~
名古屋大学には、博士課程後期から社会人入学しました。博士課程前期は、これまでの研究活動が認められ、飛ばすことができました。外部の人間をこういった形で、フレキシブルに受け入れる度量に、当時は深く感謝しましたが、これはその後の博士課程後期、日本学術振興会の特別研究員、人類文化遺産テクスト学研究センターの共同研究員であったそれぞれの研究期間中にも強く感じました。細部にこだわらず、自分の意志で行動する自由闊達の精神を尊重してくれています。特に、エジプト滞在時から学際研究を推進してきたために、伝統的なアプローチだけでなく、新しい方法論の開発の重要性を理解してくれる場所として有り難いです。現在は高等研究院の専任教員として、さらに広い形で、学際研究の推進を推進しており、刺激を受ける場所になっています。
~研究者ごとの成果はジグソーパズルの各ピース。それらを繋ぎ合わせて、当時の社会を包括的に見たい~
私はこれまで、ギザのピラミッド群という、世界遺産のなかでも最も有名な古代の建造物の3D計測調査を行ってきました。現在、ピラミッド研究は、ピラミッドを建造した人々の古代都市のデータや、大ピラミッドを建造したクフ王の時代にさかのぼる最古のパピルス文書の発見と解読、そして名古屋大学大学院理学研究科の森島邦博 准教授による素粒子ミューオンを用いた透視調査による巨大空間の発見など、様々な新しいデータがでてきています。こういったデータはある種、ジグソーパズル的に繋げ合わすことができます。私自身は、自分たちが取得したい3Dデータをそのパズルの一つとし、これまで分からなかった当時の社会を包括的に見たいと思います。来年(2022年)は、ツタンカーメン王墓発見100周年であり、ヒエログリフ解読200周年、さらに世界最大級となる大エジプト博物館の公開があります。エジプトブームが非常に高まると思います。私たちの調査もこの熱気のなかで、さらに大きく飛躍したいと思います。最後に、名古屋大学特定基金では、「総合科学による古代エジプト調査研究支援事業」を設置しております。是非この基金へのご支援を通じて、私とともにピラミッドの謎解明への挑戦に参画くだされば幸いです!