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名大ファミリーにクローズアップ

「まだ誰もやったことのないことには、何故か小さいころからものすごくやりがいを感じます。」

今回は、名古屋大学の現職教授であり、ノーベル物理学賞受賞者の天野 浩 教授にお話しを伺いました。学生時代も名古屋大学で過ごした天野先生が抱く名古屋大学への想いと、大学での研究の醍醐味についてのお話しをご紹介いたします。

名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 天野 浩 先生(2014年ノーベル物理学賞受賞)

名古屋大学の印象は「やさしさと安心感」

名古屋大学の一員として、名大の印象を言葉に表すとやさしさと安心感ですかね。学生だった頃、石英管の細工でガラス室にお世話になっていたとき、何も知らない学生の無茶苦茶な要求にも耳を傾けて聞いて指導してくださり、期日前にきちんと仕上げてくれました。また、元素分析をお願いするとき、論文提出の締め切りが迫っていることもあり、大量の試料の評価をできるだけ早く、とお願いしたことがありました。本来ならばできないことですが、しつこく何度もお願いしたら、”仕方ねえなあ”、とおっしゃって何日もかかる仕事を1日で仕上げて頂いたこともありました。その気風はいまでも変わっていないような気がします。ただ、それに甘えてしまい、60近い今でも締め切り過ぎても書類を提出せず、温かい催促のメールを頂くたびに、”これではいけない”、と反省しております。

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まだ誰もやったことのないことに、ものすごくやりがいを感じます

やはり新しいもの好きというのは、昔から変わりません。まだ誰もやったことのないことには、何故かわかりませんが小さいころ頃からものすごくやりがいを感じます。名大では、2018年、東山キャンパスの東端にGaN(窒化ガリウム)専用のクリーンルームができました。GaN専用というのは世界でも、ここ名大にしかありません。これを如何に発展させ世界を先導するか、考えるだけでワクワクします。
文部科学省の援助を受けて5年間このGaNという材料の潜在能力を見極めることに注力してきましたが、その結論は、やはりこの材料は素晴らしい!、ということでした。今後は、世間の皆様にその素晴らしい能力を享受していただくのが、私たちの仕事です。
また卓越大学院でDIIプログラムを担当させていただいております。5年一貫の人材育成というのは、これまでやりたくてもできなかったことです。DIIプログラムで、新時代に適合した今までにない人材を世に送り出したいと思っております。

 

卓越大学院DIIプログラム→(正式名称:名古屋大学未来エレクトロニクス創成加速DII協働大学院プログラム)
:「卓越大学院プログラム」は、各大学が自身の強みを核に、これまでの大学院改革の成果を生かし、国内外の大学・研究機関・民間企業等と組織的な連携を行いつつ、世界最高水準の教育力・研究力を結集した5年一貫の博士課程学位プログラムを構築する文部科学省・日本学術振興会の事業。
DIIプログラムはこの事業に採択された名古屋大学のプログラムで、工学研究科の大学院生が参加できるもの。
(Deployer、Innovator、Investigatorの略)

新型コロナウイルス感染拡大の最中で

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新型コロナウイルス感染拡大の最中にあっては、学生の安全を守るのが最優先ですので、如何に感染を防ぐか、クラスター化を防ぐか、が最大の課題となります。密を避けるということでは、授業のオンライン化は当然です。
今年も研究室に新人の4年生や、他大学から博士前期課程の学生が入ってきましたが、その学生達が登校ができないということで、私自身は慣れないオンラインでLED研究の紹介などを始めました。その後、ありがたいことに研究室の若手教員数名がオンラインでの研究紹介を引き継いでくれて、それぞれ自発的に自らの得意分野の授業を継続的に続けてくれたときはうれしかったですね。
一方、どうしても手や体を動かして実施する実験や研究については、オンラインでの実施には限界がありますので、その辺りは今後の課題として捉えています。

また、私の研究に関するところでいえば、コロナ禍にあっては、深紫外線が注目されています。皆さんが中学の生物で習ったDNAは、核酸塩基、すなわちグアニン、アデニン、シトシン、チミンなどから構成されていますが、いずれの塩基も深紫外線領域に吸収帯があり、強く吸収されると分解します。そのため、ウィルスに深紫外線を当てると、DNAが壊れて、それ以上増殖できなくなります。不活化とよく言われます。深紫外線ですが、大きく分けて二つの波長帯があり、一つは200-220nm帯、もう一つは260-280nm帯です。現在LEDが対応できているのは260-280nm帯の方です。LEDですので、コンパクトな不活化システムができます。ただ、DNAを壊すので、人には害があります。そのため市販の空気清浄は、光の漏れない装置の中に空気を取り入れて集中的に不活化して、安全になった空気を排気しています。一方200-220nm帯は、いまのLEDは効率が悪く、ランプ式に期待がかかっています。この波長帯の安全性は未来の実用化に向けて今後しっかりした検証が必要です。

個人的にはステイホームでは読書に勤しみ、天気の良い日は、気分転換と体力維持のため、大学まで一時間半ほどかけて徒歩で来ることもあります。道中、目に映る景色や動物などの写真を撮ったりすることも、ささやかな楽しみのひとつです。

2050年の社会を引っ張っていくのは、今20代の学生、あるいは30代の若手研究員の皆さんです

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例えば、電気自動車の将来について考えてみると、確かに走行中はCO2などの環境負荷物質を排出しませんが、問題は使っている電気で、現在の日本ではいまだに発電の80%以上を化石燃料に頼っています。私たちの住んでいる環境を守り、真に効果のあるゼロエミッション社会を実現するには、電気自動車だけではなくて、そのエネルギー源である発電についても、再生可能エネルギーの積極的な導入も不可欠です。我々のやるべきことは山積しており、またそれぞれその課題を解決するには長い時間と労力がかかります。今目の前に与えられている一つ一つの課題を解決しながら、世界的な視野からも我々のできることを意識しながら進んでいきたいと考えておりますし、それが私たち研究者に課せられた豊かな未来社会作りへの関わり方、もっと言えば使命だと考えています。

そして、改めて未来に目を向け、これから30年後、2050年のことを考えると、私は90歳ですのでこの世にいないか、居ても隠居生活です(笑)。2050年の社会を引っ張っているのは、今20代の学生、あるいは30代の若手研究員の皆さんです。私たちと共に研究に取り組む情熱がありながらも経済的に苦しい学生、優れた成果が出ても研究費がないので国際会議で発表できない研究員など、財政面で苦しんでいる将来の担い手は少なくありません。

私たちは次世代半導体GaNの教育・研究に関する支援を賜るため、名古屋大学特定基金「青色LED・未来材料研究支援事業」の基金を設置しております。是非この基金を通して、彼らに皆様の援助の手を差し伸べて頂ければ幸いです。

深紫外線
:300ナノメートル以下の短波長を持った紫外線の一種で、とりわけ波長265ナノメートル付近の深紫外線はDNAに吸収されやすく、遺伝情報の消失効果(遺伝情報が失われると菌は増殖できなくなる)があり、最も強い殺菌作用が発揮されるといわれている。

ゼロエミッション
:「何も無駄にしない。すべての廃棄物に付加価値を見いだして利用し尽くす」技術体系や経営手段を意味する理念。
(出典:知恵蔵)